新たな職業や文化はどうやって根付くのか。熱狂的なeスポーツ会場に足を運んだ筆者が、「プロ化」から考えたこと。マクアケ創業者による好評連載第53回。
先月、eスポーツが好きな友人に誘われて、両国国技館で行われた対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」の世界大会「CAPCOM CUP 11」を観戦した。土俵に見立てた特設ステージで、予選を勝ち抜いた世界のトッププレイヤーたち48人が火花を散らす。会場は満員御礼。優勝賞金は100万ドルとあって熱気もすさまじい。そんななかで優勝を勝ち取ったのは、日本人プロゲーマーの翔(KAKERU/FUKUSHIMA IBUSHIGIN所属)選手だった。決勝戦の相手は15歳のチリ出身選手。年齢も国籍も関係なく実力だけで勝ち上がる姿に、観客から大きな声援が送られていた。
また会場の一角には、ゲームの試遊ができるブースや協賛企業の出展などもあり、なかでもスズキがゲームキャラクターとコラボしたバイクを展示したブースには、長蛇の列ができていた。相撲の聖地に格闘ゲームのトッププロ同士が集い、真剣勝負を繰り広げる光景は、時代の変化を強く実感するひとときだった。
eスポーツはここ数年で急速に市場を拡大し、トッププレイヤーたちは世界中から羨望のまなざしを向けられる存在となった。もはや「ゲームに熱中しているだけ」ではなく、それを職業として成立させる時代が到来している。国内ではここ数年で、優勝賞金が1億円を超えるような大会が開催されている。事実、今回観戦した大会もかつてない規模の賞金が設定されていた。世界では、優勝賞金が10億円を超える規模の大会や、賞金総額が100億円に達する大会さえ存在する。
考えてみれば、今は大人気のサッカーやバスケットボールでさえ、プロリーグが誕生する以前はアマチュア競技であり、選手たちはそれだけではご飯が食べられない時代があった。そういう意味で、私が少年だったころに目撃した1993年のJリーグ開幕は、日本におけるスポーツの在り方が大きく転換する瞬間だったと言える。Jリーグ発足前、サッカー選手は子どもたちの憧れの職業ランキングのトップではなかったが、プロ化によって多くの子どもたちが「サッカー選手になりたい」と夢見る時代が訪れた。同じように、YouTuberやTikToker、VTuberといった肩書も、この10年ほどで登場し、多くの若者が目指す職業へと変貌を遂げている。新しい技術や文化が生まれるとき、それに戸惑いや半信半疑の声はつきものだが、振り返ればそれらが社会に定着し、新たな職業や産業が育っていく姿を何度も目にしてきた。