ビジネス

2025.06.10 10:15

事業共創のコツは、ドラッカーに学んだ「自転車思考」にあり クロストレプレナーへの道

ドラッカーの理論は「自転車の仕組みと操り方」に例えられる 

戸松:僕にとってマーケティングのイメージは、やはりピーター·ドラッカーです。

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田尻:やはり!

戸松:ドラッカーは、企業がやることは「顧客の創造」であって、それ以上でもそれ以下でもないと言っています。つまり、新しい市場を作られなければ、もう組織なんかやめた方がいい(役に立てる場所がない)、ということです。

それから、ドラッガーは企業に必要な機能は二つしかないといっています。つまりそれは「マーケティングとイノベーション」です。「この2つの機能だけで顧客の創造を達成できる」と彼の著書『マネジメント:基本と原則』でも述べています。とはいっても、「マーケティングとイノベーションしか要らない」と急に言われても、よくわからないですよね。

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「OPEN HUB for Smart World」代表の戸松正剛氏(左)と「カクシン」CEOの田尻望氏

田尻:抽象度が高くて、解像度が低くなってしまう表現ですよね。マーケティングとイノベーションしかいらないなら、僕たちは何をやっているのか、と。

戸松:そうですよね。

田尻:例えば、「マーケティングとイノベーション」しかないのであれば、「セールス」はどこにあるのかと。もちろん、マーケティングの中にあります。セールスはマーケティングの中で、潜在ニーズに気づかせて、買いたいと思わせ、断られたとしても顧客の真意を聴くという、直接的コミュニケーションができるとても重要な役割です。だから、顧客との関係性の中でやっぱりセールスの力がいるんです。読者の中にはセールスとマーケティングは違うと思っていらっしゃる方もいらっしゃいますが、広義に言えば、実は違わないんですよね。

戸松:よく講演などの冒頭で「自転車と操業」という話をするんです。この二つの言葉は繋げてしまうと、「自転車操業」になって意味が違ってしまいますが(笑)。「自転車と操業」とは「企業経営とは何か」を説明するために使うアナロジーです。

まず、自転車の方向を決めるハンドルが経営です。サドルに乗っているのは誰かというと、お客さまです。では前輪はというとマーケティングで、後輪はイノベーションです。「お客さまをイノベーションとマーケティングで運んでいる。」これがおそらくドラッカーが言っていることだと僕は考えています。

━━なるほど。

戸松:それでは、前輪は何のためにあるかというと、「顧客課題の発見」のためにあるのです。要はお客さまが困っていること、お客さまが求めている「インサイト」を見つけることがマーケティングなのです。田尻さんが言うようにセールスが見つけるかもしれませんし、リサーチが見つけるかもしれません。しかし、いずれにしても、マーケティングの基本は課題を見つけることにあるのです。

では、後輪のイノベーションは何かというと、「解くこと」になります。イノベーションの理論では、「連続的」「非連続的」「破壊的イノベーション」など、様々な言葉で説明されますが、それはイノベーションの解き方の話であって、シンプルに「イノベーションは何か」と言うと「お客さまの課題を見つけて解くこと」になります。そうすることで、つまりお客さまの課題をみつけて解いてさしあげることで、はじめて、お客さまがお金を払ってくださるので、自転車はそこではじめて走りだします。しかし、後輪だけでは、車体が右に行ったり左に行ったりするので、そのために方向性を決めるハンドルとしての経営があるということです。

このように考えると、マーケティングやイノベーションは概念的には経営そのものだとドラッカーは言っていると僕は思っています。従って、まずそこに立脚して事業共創を見なければ、それに乗って推進してくださるお客さま不在の、どこにも動き出さない自転車だけになってしまうという話です。

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文=中田浩子

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