美は見る者の目に宿る、と人は言う。
では、生物学者である筆者が、最も美しい尾羽をもつ鳥はどれかという質問に答えるとしたら、オーストラリアのコトドリを挙げたい。その優美さの極致のような背を見てほしい、と。
確かに、彼らの尾羽はクジャクほど大きくないし、派手でもない(実際、こうした飾り羽は、配偶相手候補の注意を引くものとして進化してきたのだから、派手さは重要な特徴だ)。それでも、コトドリの尾羽はこの上なく繊細で、色彩も魅力的だ。
実は、この尾羽の美しさゆえに、コトドリと、やや小柄な近縁種のアルバートコトドリは、20世紀初頭に危うく絶滅するところだった。きらびやかな尾羽が、(例えばこのような)女性用の帽子の装飾として珍重されたためだ。しかし、オーストラリアのコトドリの個体数はやがて回復し、現在は安定している。
ここには悲しい皮肉がある。オスのコトドリのきらびやかな飾り羽は、メスのコトドリとの繁殖機会を増やすものだったからこそ進化したのだが、ほぼ同じ進化的理由からこれらを利用したヒトの需要のせいで、彼らは一度は絶滅寸前に陥ったのだ。何より嘆かわしいことに、こうして犠牲になったのはコトドリだけではなかった。この時代、多くの種の鳥類が、誰もが憧れるファッションアクセサリーとして乱獲され、一部の種はそのせいで絶滅した。
私たちは、おしゃれな帽子をつくるために不必要に殺されたコトドリに同情することができるし、そうすべきだ。けれども、とある科学的事実を聞いたら、そんな同情の気持ちも少しだけ薄れるかもしれない。学術誌『カレント・バイオロジー』に掲載された最近の研究によれば、オスのコトドリは──ふだんは甘美な歌声を奏でるのだが──求愛と交尾のさなか、ときにモビング(天敵への擬攻撃)する鳥の群れの鳴き声をまねることがある。これは、交尾の機会がめぐってきた際に、ターゲットのメスに、オスのそばにいた方が安全だと思わせ、逃さないようにするためだと考えられている。
オーストラリアで最も華やかな鳥であるコトドリと、そのほかの美しい尾羽をもつ(クジャク以外の)2種の鳥について、詳しく紹介していこう。
至高の美を誇るコトドリ
コトドリの尾は、究極の対称性とテクスチャーのお手本だ。求愛ディスプレイのなかでオスが尾羽を広げると、古代ギリシャの竪琴(lyre)を思わせる形をなすことから、この楽器にちなんで「コト」と名付けられた(英名はsuperb lyrebird)。
