北米

2025.06.07 08:00

トランプとマスクの決裂、NASAのミッションが最大の被害者になる可能性

テキサス州ブラウンズビルにあるスペースXを訪れたイーロン・マスク。2025年5月27日(Marvin Joseph/The Washington Post via Getty Images)

テキサス州ブラウンズビルにあるスペースXを訪れたイーロン・マスク。2025年5月27日(Marvin Joseph/The Washington Post via Getty Images)

トランプ米大統領との間で非難の応酬を開始したイーロン・マスクは6月5日、X(旧ツイッター)に自身が率いるスペースXの宇宙船ドラゴンを「ただちに退役させる」と投稿した。これは、トランプが「最も簡単な政府の予算の節約手法は、イーロン向けの契約と補助金を終わらせることだ」と投稿したことへの仕返しだ。

マスクは、その数時間後の投稿で「やっぱりドラゴンは退役させない」と述べたが、仮にトランプが本当にマスクとの契約を打ち切るか、あるいはマスクが本当にドラゴンを引退させるのであれば、最大の被害を受けるのは米航空宇宙局(NASA)かもしれない。創業当初のスペースXは、NASAからの支援で大きく成長したが、今では同社はNASAがなくてもやっていける。マスクによるとスペースXの年間収益は約155億ドル(約2兆2300億円)というが、その約80%は衛星インターネットサービスであるStarlink(スターリンク)によるものだ。

一方でNASAは、スペースXなしではやっていけない。NASAは運用の多くをスペースXに依存しており、同社のロケットは昨年、NASAの宇宙ミッションの半数以上を打ち上げた。NASAには他にも同分野のパートナーがいるが、その多くは開発面でスペースXに数年遅れている。

たとえばロサンゼルスに拠点を置くRocket Lab(ロケット・ラボ)は、昨年NASAのミッションで2番目に多く打ち上げた企業だが、同社のロケット「Electron(エレクトロン)」は小型衛星専用であり、NASAが通常打ち上げている大型の宇宙船には対応していない。同社は、より大型のロケットを開発中だが、その初打ち上げは2025年後半以降に予定されている。

また、スペースXは現在、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を運ぶことができる唯一の米国企業であり、それを可能にしているのがスペースXのドラゴンだ。これが使えなくなれば、NASAは再びロシアの宇宙機関に頼らざるを得なくなる。ボーイングも現在、スターライナーと呼ばれる宇宙船を開発中だが、認証の取得はかなり先のことになりそうだ。

トランプとマスクの衝突の余波は、今後のNASAの計画にも影響をおよぼす可能性がある。スペースXは、NASAが進める有人月面探査「アルテミス計画」でも重要な役割を担っている。トランプ政権は、現在このミッションで使われているSLS(スペースローンチシステム)と宇宙船「オリオン」の退役を決定済みで、それ以降はジェフ・ベゾスのブルーオリジンとスペースXの宇宙船に置き換えるとされている。

トップ不在のNASA

今回のトランプとマスクの衝突は、現在トップが不在のNASAにとって最悪のタイミングで起きている。トランプは起業家でビリオネアのジャレッド・アイザックマンをNASAの次期長官に指名していたが、上院での承認が数日後に迫る中で、先にその人事を撤回した。

この件もトランプとマスクの対立に火を注いだ可能性がある。マスクと親しい間柄にあるアイザックマンの決済会社Shift4は、スペースXに投資をしている。彼は、ポッドキャスト番組『All-In Podcast』のインタビューで、自身の指名の撤回の理由がマスクとの関係にあるのかもしれないと語った。「恨みを抱いた人物が何人かいたようだ」と彼は述べ、「私は目立つ標的だった」と付け加えている。

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forbes.com 原文

編集=上田裕資

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