「今、商品やサービスの『検討』というプロセスが、極めて困難になっている」と指摘するのは、生活者の"選ぶ瞬間"を分析し続けてきた元・電通プランナー、小島雄一郎氏。商品やサービスが無事認知されたとしても、お客さんがその後、検討段階で立ち往生してしまうことが多くなっているという。それは、検討すべき情報や選択肢があまりにも多すぎるから。
「選択疲れ」の時代にモノ・サービス・人間関係まで含めた「選ばれる構造」をマーケティング・心理・社会の視点から解いた小島氏の著書『「選べない」はなぜ起こる?』(サンマーク出版)から、一部引用・再編集してご紹介します。
選択肢を減らして売上を伸ばす
お客さんは「選ぶのがめんどくさい」というモードに突入している。購買意欲が下がっているのだ。
だから、これからは「お客さんを選ぶストレスから解放してあげること」が生存戦略となる。「これを選べば間違いない」という安心感や、「自分にはこれが合っている」という納得感を、短時間で提供できる仕組みが必要だ。
例えば、選ぶ基準を明確に示したり、選択肢をあえて絞ったり、「最初はこれから」といった入門編を用意したりすることで、検討のハードルを下げられる。
例えば私は2024年から、日本酒や日本ワインを扱っているIMADEYAという酒店の取締役をやっている。きっかけは2021年に都内にある自宅の1階に、この酒店のテナント出店を誘致したことだ。その際のストーリーが「選択のストレスをなくす」ことの威力を示している。
「はじめの100本」というカスタマージャーニー
IMADEYAが取り扱うお酒は数千、数万種類にも及ぶ。当初、私の出店提案に対してIMADEYAの経営陣は後ろ向きだった。
理由は単純。テナントが狭すぎるのだ。自宅1階はわずか7.5坪、並べられるお酒はせいぜい100種程度。「100種類からしか選べないなんて、お客さんが楽しくないじゃないか」。彼らはそう考えていたのだ。
しかし、お酒に詳しくなかった私は真逆の感覚を持っていた。
「100種類から選ぶなんて、自分にはできない」と。
確かにお酒に詳しい人にとっては「選べる」ことは価値かもしれない。だが「選べる」ようになるには、前提知識が必要だ。産地の違い、お米や葡萄の種類の違い、製法の違い。これらの知識があって初めて豊富な選択肢の意味が理解できる。しかし、これはお酒業界にいる人だけの前提であって、一般生活者の前提ではない。
そこで私は(ただの大家さんではあったが)、「はじめの100本」という逆転の発想を提案した。1962年創業の千葉本店が、その当時「万」と掲げてコンビニのような品揃えを訴求したことに対するオマージュだ。