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2025.06.03 09:15

加速度30%向上 アミメハギの泳法が次世代ロボットのカギとなるか

プレスリリースより

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アミメハギというカワハギの仲間で体長8センチほどの小さな魚は、停止状態から急加速するときに尾ビレを畳むという。そうするほうが加速度が上がるのではないかと考えた金沢工業大学機械工学科の福江高志研究室、のとじま水族館、岩手大学による研究チームは、その機械工学的な検証を行った。

房総半島以南の日本近海に生息するアミメハギは、愛嬌のある表情と、背ビレと尻ビレで推進するバリスティフォームという泳ぎ方が可愛らしく水族館でも人気者だが、ときどき尾ビレを開いたり閉じたりする。それは尾ビレによる水の抵抗を減らして加速度を高めるためだという仮説を立てた研究チームは、水槽での観測と、コンピューターによる流体シミュレーションを使った検証を行ったところ、次のことがわかった。

1. 尾ビレを畳むことで平均加速度(停止状態から目標の速度まで加速する際の平均的な加速度のこと)が最大で30パーセント増加する。

2. 尾ビレを開くと加速能力は落ちるが、背ビレと尻ビレで発生した逆カルマン渦が尾ビレで発生したカルマン渦によって補強され、移動のコスパが向上する。

魚の周囲の渦の様子を表したシミュレーション画像。
魚の周囲の渦の様子を表したシミュレーション画像。

カルマン渦とは、流体の中の物体の後方に生じる連続した渦のこと。逆カルマン渦は渦の向きが逆になったものだが、どちらも物体の後方に水や空気を押し出すことで物体を前に進める力を生じさせる。ヘリコプターが飛び回れるのはカルマン渦をうまくコントロールしているためだ。

福江高志研究室は流体工学分野の研究を行っているが、そのひとつに生物の動きを模して工学に取り入れるバイオミメティクスがある。この研究も、水中ロボットの複数のヒレの動きを連携させて高い前進性能を生み出す推進機構の開発といった実用的な工学分野に直結しているのだ。

一見地味なようでも、この研究ではシミュレーションに東京大学情報基盤センターのスーパーコンピューターが使われている。こうした大学や研究機関の連携で地道な成果をあげていく、日本の研究体制の懐の深さが感じられる話だ。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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