「この1年は激動でした。その前は動くに動けなかった。そのぶん一気に種まきをしました」
TKPを率いる河野貴輝は、直近1年をこう振り返った。ここでいう「種まき」とは、資本提携や買収のこと。2024年2月のAPAMANの一部株式取得を皮切りに、総額約260億円を投じて5社(他にリリカラ、エスクリ、ノバレーゼ、スペースマーケット)の資本提携およびホテルの購入を実行に移したのだ。
伏線は、コロナ禍前の日本リージャス買収にあった。リージャスはレンタルオフィスの世界的大手。そのうち日本リージャス、台湾リージャスを19年に約500億円で買収。当時の売り上げ約350億円より高い資金を投じた大型買収だった。
実は河野は「レンタルオフィスはもうからない」が持論だ。TKPの設立は05年。六本木で2階、3階の空いたビルを見つけ、3階でレンタルオフィス、2階で貸会議室を始めた。両方やってみると伸びたのは貸会議室のほうで、以降は貸会議室に絞り込んで事業を展開した。なぜ一度見切りをつけたレンタルオフィス事業の大型買収に踏み切ったのか。理由をこう明かす。
「TKPニューヨークの隣がウィーワークで、上がリージャス。どちらも勢いがありました。もうからないという持論は変わりませんが、それでも業界1位なら大きな生存者利益を得られると踏みました」
ところが、それを検証する間もなくコロナ禍が業界を襲い、TKPも創業以来初の赤字に陥った。会社存続のため、23年2月に日本リージャス・台湾リージャスを三菱地所に売却。このとき1年間の競業避止契約を結んでおり、アクションは取れなかった。その間にたまったマグマを噴き出させるように、期間が明けた24年2月から立て続けにM&Aを仕掛けたのだ。
最終利益が黒字化したのは24年2月期。大型買収の傷が癒えたばかりのタイミングでまた買収攻勢をかけたのは「リージャス売却で現金はあったが、現金のままでは利益を生まない」から。もちろん二のてつを踏むつもりはない。
「リージャス買収はのれん償却が重く、減損のリスクが出てきたので売却しました。一方、今回のM&Aは再編や再生がテーマで、のれん代はないが小型なところばかり。再編・再生が必要な事業なので経営の手腕が問われますが、財務上のリスクは低い」