自動車の関税や貿易をめぐる現在の紛争は、国際的に確立している車両安全基準に悪影響を及ぼすおそれがある。歩行者や子どもを含め、世界各国で道路を利用する人々が危険にさらされ、貿易戦争の犠牲者になるという結果にもなりかねない。
そうした深刻な事態を懸念して、世界の33の道路安全団体は、貿易交渉の結果、安全基準が後退すればこれまでの進歩が逆戻りしてしまうと警告し、そうならないようにするための行動を各国に呼びかけている。
「確立されたグローバルな規制と、『不公正』と言われている貿易慣行を混同しないことがきわめて重要だとわたしたちは考えます」。これらの団体はこのほど、経済協力開発機構(OECD)の傘下組織で、69カ国が加盟する国際交通フォーラム(ITF、本部パリ)の議長国、チリのフアン・カルロス・ムニョス運輸通信相に宛てた書簡でそう強調している。
書簡は、ITFが21〜23日、ドイツのライプツィヒで開催している年次サミットで、各国の交通担当相に共有してもらうために送られた。今年のテーマは「世界的なショックに対する交通のレジリエンス(強靭性)」となっている。
書簡に署名した団体のひとつで、ロンドンに本部を置く非営利組織「世界新車評価プログラム(グローバルNCAP)」のデービッド・ウォード名誉会長がフォーブスの質問に答えた(回答は内容を明確にし、短くまとめるために編集している)。
──書簡の目的は?
「各国の交通担当相に対して、既存の規制基準を維持していくこと、また、国連の車両規制に関するグローバルな枠組みをより有効に活用するよう働きかけることです。この枠組みは車の安全性向上と国境を越える貿易の両方を促進するものです」
(たとえば現在、世界中の乗用車に一般的に適用されている、前部・側面衝突試験や歩行者保護、横滑り防止装置(ESC)に関する要件は、数十年の間に「非常に大きなスケールメリットをもたらし、世界中の市場で安全性を安価に提供できるようにしました」と書簡は説明している。)
──どういった経緯で作成されたのですか。
「主なきっかけは、ドナルド・トランプ米大統領が不公正な貿易慣行の例として、いわゆる『ボウリング球試験』を持ち出し、多くの自動車メーカーに対する関税を課すと脅したことです。欧州の主要な安全団体は3月31日、(英紙)フィナンシャル・タイムズに掲載された書簡でそれに対する懸念を示しました。今回の共同書簡は、同様の懸念をグローバルな視点から表明するものです」