「いらないもの」すら、うまく顧客のニーズを捉えて翻訳すれば価値になる。その着眼点は、地方創生や観光における商品開発のヒントになる。地域の文化や素材は、そのままでは伝わらない。体験を通し、参道を巡りながらこの土地の工芸や香り、空間美に自然と触れられる仕組みをつくっているとも言えるだろう。

さらに印象的だったのは、宿に泊まることで町を見る視点が変わり、距離感がぐっと縮まったことだ。町を散歩していると、木の香りが漂い、職人の槌の音が聞こえてくる。
新たにできたカフェでは、都心から移住してきた人たちが、近隣の素材を使ったスイーツを提供していた。富山県外からも若い世代の移住が進み、この5年で40軒以上の空き家や空き店舗が再生されているという。カフェやパン屋、クラフトビールのバー、古着店など、かつて使われていなかった建物が次々に文化や賑わいの拠点として生まれ変わっている。
空き家を地元の職人とともに再生し、高付加価値な宿泊空間へと転換していく。その体験を通じて、訪れた人が町の産業や生活文化と自然に結びついていく。そして何より、それが観光として経済循環を生む仕組みになっている点に、このまちづくりの奥深さがある。
たとえば、
・地元産業の“副産物”を観光商品へと転換するアプローチ
・空き家や遊休不動産を職人とのコラボで再編集する手法
・宿泊を起点にした地域との関係構築やファンづくりの可能性
など、井波は地域資源を活かした地方観光の未来像を示す好例といえる。
私は宿泊をきっかけに井波を訪れたが、帰る頃には町の風景や空気、香りにすっかり愛着を抱いていた。泊まるという行為そのものが、町との静かな対話になっていたのだ。旅先でただ見るだけでなく、そこに「関わる」体験があると、人と土地の距離はぐっと近づく。
井波のような町が増えれば、日本各地の「まだ知られていない価値」は、もっと輝き出し、遠くからわざわざ訪れる観光地になるのではないか。そんな希望を胸に、この町を後にした。
