北米

2025.05.19 09:00

米国で「回避可能な死」が増加、銃や交通事故など 他の先進国との差が歴然

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米国で「回避可能な死」が増加している。一方、他の高所得国では同様の死亡が減少の一途をたどっている。回避可能な死とは、予防を含む迅速で効果的な医療があれば起こり得ない死亡事故を指す。これは憂慮すべき事態であり、米国と諸外国との平均寿命の差の拡大の一因にもなっている。

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっていた頃、米国の平均寿命は他の国々より大きな打撃を受けた。また、他の先進国とは異なり、米国の平均寿命は2010年以降、伸び悩んでいる。要因は複数考えられるが、そのひとつは、米国では他国と比べて回避可能な死者数が多いことだ。回避可能な死亡とは、予防を含め、適切なタイミングおよび効果的な医療が存在すれば発生すべきでない死亡を指す。

死因を調査する臨床医は、何らかの対策によって死を回避できたかどうかを判断することがよくある。世界の高所得国の多くでは、回避可能な死者数が減少している。それとは対照的に、米国では回避可能な死が過去10年以上にわたって増加していることが、米ブラウン大学と米ハーバード大学による新たな調査から示された。調査結果は2025年3月、医学誌「米医師会紀要(JAMA)」に掲載された。調査では、全米50州と経済的に豊かな40カ国の死亡率の傾向を分析した。それによると、米国の回避可能な死亡率は2009~21年の間に上昇していた。一方、他の国々では新型コロナウイルスの流行が続いた20~21年の期間を除くと、同様の死亡率は低下していたことが明らかになった。

同論文の筆頭著者であるブラウン大学公衆衛生学部のイレーネ・パパニコラス教授は、医学誌メディカルエクスプレスの取材に対し、今回の研究結果は米国の医療制度の問題を浮き彫りにしていると指摘した。例えば、米国では2010年代初頭から交通事故による死者数が増加しており(他の先進国では減少傾向にある)、銃や違法薬物の過剰摂取による死亡も依然として非常に高い確率で発生しているほか、自殺率や妊産婦死亡率、乳児死亡率も上昇している。また、子宮頸がんや虚血性心疾患など、早期発見で予防可能な病気も増加している。

研究者らは、米国の各州でさまざまな原因による死亡が増加しているが、州ごとにかなりのばらつきがあることも発見した。米国の回避可能な死者数は2009年時点では10万人当たり約20人だったが、21年には同44人と倍以上に増加していたことが判明した。一方、他の先進国では、回避可能な死者数が米国より10万人当たり約14人少なかった。欧州連合(EU)加盟国では同種の死者数はさらに少なく、平均して米国より10万人当たり約24人少なかった。

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翻訳・編集=安藤清香

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