桜庭喜行は2017年2月、「ゲノム解析技術を通じて、家族の未来をつくる」をミッションとしてVarinosを共同創業した。同社は、高速にDNA配列を解読する次世代シーケンサーを使ったゲノム検査を開発・提供。不妊治療領域では、17年12月に「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化した。妊娠・出産と深くかかわるラクトバチルス菌や悪玉菌といった子宮内の超微量な菌を高精度に解析する検査で、不妊治療クリニックをはじめ、全国350以上の施設で導入されている。
ライフサイエンス専門VCのファストトラックイニシアティブ(FTI)は、Varinosが6億円を調達した22年7月のラウンドでリード投資を行った。同VCプリンシパルの木村紘子が投資した理由とは。
木村:最初に桜庭さんとお会いしたのはVarinosの創業前でしたね。当時は、子宮内フローラ検査がまだコンセプト段階で、プロトタイプやデータもなく評価できなかったこともあり、様子見させてもらったんです。しばらくして、2022年4月に不妊治療の保険適用が始まり、子宮内フローラ検査の先進医療化に向けた動きもあって、事業性が一気に広がると感じました。そこで改めてお話しをして、ようやく22年のラウンドでご一緒することができました。
医療の検査領域は、新しい技術が臨床現場で利用できるようになるまでに長い開発期間を要することが多く、投資対象としては難しい場合もあります。しかし、Varinosの検査は、きちんと論文として、実際に臨床で取得した一定量のエビデンスを集めていた。不妊治療に悩む当事者にとって、治療方針の決定に寄与するソリューションになりえると思いました。
桜庭:日本はバイオに詳しいVCがほとんどなくて、なかなか理解していただけないという課題がありました。木村さんをはじめFTIのメンバーは、バイオ専門でない投資家の方だとたくさん説明が必要なことを、すぐに理解していただける。意思疎通がしやすく、サイエンスを通じて評価いただけたのはうれしかったですね。
木村:我々はサイエンスを大事にするファンドです。桜庭さんは、心から真摯に、地道に取り組んでいて、絶対に嘘をつけないお人柄。物腰は柔らかいですが、研究者としてすごく情熱をもって開発に取り組んできました。やると決めたらきちんとやり遂げるという信頼感があります。最初にお会いしたときは、「本当にできたら素晴らしい!」という状態でしたが、堅実な資金調達をやりながら、きちんとエビデンスを固めて、不妊治療施設に導入していけるサービスに育ててこられた。