CO2排出量見える化から削減、報告までをワンストップで支援するソリューションで国内外の企業から注目を集め、創業からわずか6年でグローバル市場での躍進を続けるアスエネ。同社を率いるCEOの西和田浩平に、アスエネの強さの源泉とM&Aを駆使したグローバル戦略の核心を聞いた。
アスエネを急成長に導く、揺るぎない3つの強み
2019年の創業以来、アスエネは気候変動問題というグローバルな課題解決にビジネスで挑み続けている。CO2排出量の見える化クラウドサービス「アスエネ」を筆頭に、コンサルティング、カーボンクレジット・排出権取引所、さらには第三者検証サービスまで、企業の脱炭素化をあらゆる側面から支援するソリューションをワンストップで提供。この包括的なアプローチが国内外の企業から高い評価を獲得している。
従業員数は2024年5月時点で400名を超え、日本国内のみならず、シンガポール、アメリカ、イギリスなど6カ国にまで拠点を拡大。これまでの資金調達額はシリーズCで100億円を突破し、その成長スピードはとどまるところを知らない。「次世代によりよい世界を。」という壮大なミッションを掲げながら、アスエネを率いる西和田は「将来世代にとって、脱炭素や非財務の領域は今後より大きなグローバル規模の課題となります。それをビジネスで解決することが我々の使命です。加えて、グローバルNo.1、最速で1兆円企業になるという目標を掲げており、それに共感する志の高い優秀なメンバーが続々と集まってくれています」と語る。

GX市場で独走状態とも言える地位を確立できた背景には、アスエネが持つ明確な強みと戦略がある。西和田は、その核となる要素を3つ挙げる。
第一に、脱炭素のワンストップソリューションを提供できること。多くの企業がCO2排出量の見える化、コンサルティング、削減策の実行、カーボンクレジットの購入、第三者検証といった各フェーズで異なる事業者との契約を余儀なくされる中、アスエネはこれら全てを自社グループ内で完結可能な体制を構築している。
「我々のクラウドソフトウェアを使えば、データ回収からCO2排出量の見える化までを簡単かつ迅速に行えます。さらに、専門的なコンサルティング、削減ソリューションの導入支援、SBIホールディングスとの合弁企業『カーボンEX』を通じた適切なカーボンクレジットの提案、そしてM&Aによって強化した専門部隊による第三者保証サービス『アスエネヴェリタス』まで、削減・開示・保証まで一気通貫で対応できます。この包括性は、日本国内はもちろん、グローバルで見ても他にはない我々の最大の強みです」
第二の強みは、AI活用とソフトウェアのデータ連携の高度化だ。生成AIをソフトウェア内に組み込み、チャットボットを通じて個々の企業の排出量に応じた最適な脱炭素施策を提案。データ連携(API連携など)によって、サプライチェーン全体の排出量データを収集し、AIを活用してデータ分析しながら、ESGスコアや他社比較に基づいた改善提案ができる機能も有している。
さらに、直近M&AでグループジョインしたAnyflow社の技術により、「アスエネ」と主要なSaaSサービスとのAPIデータ連携を強化し、Scope1-3の算定に必要な活動量データを迅速に取得することができるようになった。電力使用量や工場データなどを自動で取り込み、CO2排出量を算出できるため、顧客企業はデータ入力の二度手間から解放されることとなる。「最初に設定さえすれば、あとは毎月自動でCO2排出量まで算定できます。排出量レベルでの自動連携を実現しているサービスは他にはほとんどありません」と、西和田は語る。
そして第三の強みが、充実したグローバルコンサルティング・サポート体制だ。プライム上場企業をはじめとする多くの顧客が海外展開を進める中、現地の法規制や言語に対応した面談やカスタマーサポートは必要不可欠となる。
「日本のお客様で海外拠点や工場を持っている場合、現地のメンバーによるサポートを求める声はアメリカ、アジア、欧州の各地で上がっていました。この声に応えるため、我々は各国に拠点を設け、現地採用スタッフによるサポート体制を構築しています。アジア、アメリカ、欧州全てに自社拠点を持ち、きめ細かいサポートを提供できる企業もアスエネだけです」
これによって、アスエネは各国の排出原単位などローカルなデータセットや仕様の整備を進め、現在は7~8万件以上の排出原単位データベースを保有。現地のルールや制度を踏まえた多種多様なデータセットは、データプラットフォーマーとしての同社の価値を高めることにもつながっている。
GX・ESG市場のグローバル潮流を捉え、M&Aで加速する海外展開
アスエネは、創業当初からその視線を世界市場へと向けていた。2022年のシンガポール拠点設立を皮切りに、アメリカ、フィリピン、タイ、2025年にはイギリスへと、着実にグローバルネットワークを拡大。アスエネのグローバル展開の目的は、日本顧客の海外拠点に対するローカルサポート、そしてグローバル市場のシェア獲得だと、西和田は言う。
GX・ESG市場、特に脱炭素領域は、世界的に規制強化の動きが加速しており、企業の対応は待ったなしの状況だ。早くから規制が導入されている欧州では、市場も成熟しつつある。一方、同業界の中でも先陣を切って進出したアメリカでは、トランプ政権の誕生によって脱炭素規制に逆風が吹き始めたように思える。しかし、西和田は「逆にチャンスだと思っている」と強気だ。
「アメリカでは確かに、連邦レベルの施策やVCによる気候変動関連企業への出資は鈍化傾向にあります。しかし、カリフォルニア州やニューヨーク州など、州レベルでは独自の開示規制や環境政策が強力に推進されている。例えば、カリフォルニア州ではEV購入補助金を連邦政府が廃止した場合、州政府の権限で同内容の補助を行うと発表した。カリフォルニア州だけを見ても、日本のGDPを超える経済圏となっているんです。さらにトランプ政権2.0により競合が弱っている中、我々にとってアメリカは、グローバルNo.1を目指す上でいまだに避けては通れない市場で今だからこそチャンスがあると見ています」
グローバル市場のダイナミズムを捉えるアスエネは、M&A戦略を積極的に活用して攻めに転じている。2025年5月12日には、アメリカのAIエネルギーマネジメントソフトウェア企業「NZero Inc.(エヌゼロ)」のグループジョインを発表。ミシガン州政府といった公共機関や企業を顧客に持つ同社のM&Aにより、CO2排出量管理に加え、AIを活用した削減シミュレーションや最適な削減施策の自動提案といった機能を強化し、アメリカ市場での競争力を一層高める構えだ。現地の規制や市場特性を熟知した同国の企業をM&Aによってグループに迎え入れることは、単に技術や顧客基盤を獲得するだけでなく、優秀なアメリカの経営陣や人材を確保し、迅速な市場浸透を果たす上で極めて有効な戦略と言えるだろう。
こうした破竹の勢いはとどまらず、アメリカの経済誌「TIME」が発表した「世界のグリーンテックカンパニーベスト250」で、アスエネは86位にランクインした。カーボンアカウンティングおよびESGソフトウェア分野ではアジアNo.1、グローバルでもNo.2の評価を得るなど、その実力は国際的にも認められつつある。
オーガニックな成長とインオーガニックなM&A戦略を両輪とし、グローバル市場での存在感をますます強固なものにしていくアスエネ。西和田は、日本発の気候変動テック企業が世界の脱炭素化をリードする未来を思い描きながら、進撃し続ける。
アスエネ
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にしわだ・こうへい◎アスエネ株式会社 Founder 代表取締役CEO兼COO。慶應義塾大学商学部卒業後、三井物産株式会社に入社。脱炭素・再生可能エネルギー領域の投資・M&A、新規事業開発、ブラジル駐在などを経験。その後、起業し、2019年10月にアスエネ株式会社を創業。