中国から米国への貨物輸送量が4月以降急減している。本来、米国の小売業者や取引相手の卸売業者はこの時期に、新学期から年末にかけての重要な買い物シーズンのために在庫を確保する必要があるが、ドナルド・トランプ米大統領が打ち出した事実上の「禁輸」に近い関税措置によって深刻な影響を受けている。
貨物船4割減
トランプは4月上旬、中国からの輸入品に累計145%の関税を課した。ブルームバーグ通信によると、中国から米国に向かう貨物船の数は4月に一時70隻超あったのが、足元では40隻ほどと約40%減っている。コンテナ数も3割ほど減少している。
米海洋戦略センター(CMS)のシニアフェロー、ジョン・D・マカウンによれば、4月には中国から米国へ向かう貨物船の80便がキャンセルされた。この数は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)中のどの月に比べても60%以上多いという。
マカウンは「コンテナ輸送部門はマクロ環境で未曾有の逆風にさらされていると言っても過言ではない」と調査ノートに記している。
スコット・ベッセント米財務長官が「禁輸」と表現する状態が早急に解消される見込みは、米中間の現在の緊張を考えると非常に薄そうだ。仮に解消されるとしても、小売業者はなお今年後半に危機的な在庫不足に陥る可能性を視野に入れる。
貿易問題が解決に至っても、小売業界のサプライチェーン(供給網)システムはすぐには対応できないかもしれない。コンテナ船が中国から米国に到着するまでには20~40日くらいかかり、さらに商品が港から都市に輸送されるには最大10日要する。
コロナ禍のような品薄が再発するおそれ
例年であれば、米国の小売業者や卸売業者は8〜9月の新学期シーズンや12月のクリスマス商戦向けの在庫を5月中旬から6月上旬には受け取り始める。小売業者が今年、前倒しで商品を発注していたため、現時点ではまだ品薄にはなっていない。だが、米投資会社アポロ・グローバル・マネジメントのエコノミスト、トルステン・スロックは、出荷の減少が長引くにつれて「コロナ禍のような」品不足が発生する可能性が高まると警鐘を鳴らす。
ウォルマートやターゲット、ホーム・デポなど米小売大手の最高経営責任者(CEO)らも先週、ホワイトハウスでトランプと面会した際に同様の懸念を伝えている。
レイオフ、経営破綻、リセッション
米中貿易の行き詰まりが長引くほど、混乱はますます深刻になっていく。スロックは「船舶の沖合待機や注文のキャンセル、健全に経営されてきた小売業者の破産申請が相次ぐ」と予想。5月末までに米国の貨物需要は「停止状態」に陥り、6月上旬にはトラック輸送を含む物流業界や小売業界で大規模なレイオフが始まるとみている。
スロックは、最終的に「自発的な貿易リセット不況」につながりかねないとも指摘している。