矢島光氏は2011年、慶應義塾大学在学中に『モーニング』新人賞を受賞してデビューした漫画家だ。だが卒業後はIT企業大手サイバーエージェントに就職を決め、パラレルワークに突入した。これまでに世に送り出した作品は『彼女のいる彼氏』（新潮社刊）、『光のメゾン』（講談社刊）、『婚活は戦略的に。』（DPNブックス）など数多い。
以下は、矢島氏による寄稿である。
戦場に向かう恋人に贈ったスカーフ、その意味
私にとって幼い頃のお絵描きのモチーフといえば、もっぱらセーラームーンでした。
アニメは無印の頃からセーラースターズまで、ミュージカルも、俳優の大山アンザさんが演じた「アンザ・ムーン」の公演はほぼ全て観に行きました。
そんなセーラームーンが大好きな私。ある日、『美少女戦士セーラームーン』の著者である武内直子先生が描いた旦那様・冨樫義博先生の似顔絵を拝見しました（念のため解説ですが、冨樫義博先生はご存じ幽遊白書、HUNTER×HUNTERの著者で、お2人はご夫婦です）。「図解 冨樫義博王子」と題を添えて描かれたそれに、私は「男性を王子やナイト（騎士）にするのって女性なんだ」という感想を抱きました。
かつて中世の騎士は、恋人や配偶者から贈られた布スカーフを首に巻いて戦場へと向かったといいます。それは、帰還への祈り、この世に彼を繋ぎとめる思いを託すとともに、亡骸になったときでも愛する男性を見つけられるように。そして、それがネクタイの起源とも言われていて、今でも女性が男性にネクタイをプレゼントに贈るのは、その歴史に由来するようです。
ここで私が思い出すのが「ダブルアンノ」です。『新世紀エヴァンゲリオン』の監督である庵野秀明氏と、『働きマン。』、『さくらん』、『ハッピーマニア』などの著者である安野モヨコ先生が作家ご夫婦であることは、ご存じの方も多いでしょう。
2021年に放送された、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の「庵野秀明スペシャル」回では、映画「シン・ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の制作に臨む庵野監督が密着取材されています。モヨコ先生ファンの私は、監督がサッポロポテトを流し込むシーンに「『監督不行届』で読んだやつ……！」と興奮し、折々に挟み込まれる安野先生のコメントを聞きながら「監督には、モヨコ先生の首輪がついているなぁ」と感じたのでした。
